その外国人男性が来店したのは、いつの頃だったろう。今日の天気みたいに、何だか霞んでいてはっきり思い出せないけれど、土曜日の午後だったと思う。
私が花屋の店頭に立つようになってから、もう長い。
店先から入ってきたその時の様子で、どんな花が欲しいのか、50パーセントはわかる。
そして、少し話せば、よっぽど変わった人、凝った注文でなければ、そのお客様がどんなイメージを抱いているのかも、わかるつもりでいる。
その外国人男性が、アメリカ人だったのか、フランス人っぽかったのか、それすらも記憶が定かでないが、
来店して間もなく、「この花を1輪ください。」と、その人はピンクのバラを選んだ。
「プレゼントですか?」と尋ねると、嬉しそうに「そうです。」と。
・・・あ、きっと、今日はお休みで知り合いからランチにでも誘われているのだな。
いや、ピンクのバラだし、さりげなく1輪だし、彼女の自宅かもしれないな・・・。
と推測しつつ、リボンをかけたりしてギフト用にした。
その男性はお礼を述べ、やはり来た時と変わらない、明るい嬉しそうな様子で帰っていった。
お花を贈るのに慣れた、気取らない感じの良さ。いかにも外国の男性らしい様子。変わったところは一つも無かった。
それから数日後、私は近所への配達で店を出た。
1日中、広くはないお店の中でバタバタしていると、こういった外出もちょっとした散歩のようで心がスッキリする。
花を片手に、何と言うことはなく歩いていた。
いつも目にしているお弁当屋さんは今日も忙しそうだし、
信号の先にはポストとタバコ屋さんが見える。
そのすぐ近くには、お地蔵さん。
特に信心深いわけでもないのに、つい、いつもなんとなく、頭を下げたくなる。
その時も、なにげなくお地蔵さんに視線をやった。
その瞬間、私の目に入ってきたのが、
すっかり彼女宛てだと思い込んでいた、あの1輪のバラだった。
「あのお兄さんは、あんなに嬉しそうに、この為にあの花を選んでいったのか・・・。
プレゼント、って、お地蔵さんにだったのか・・・。」
自分の感覚や育った環境との落差に驚き、胸がいっぱいになった。
単に知り合いへの手土産だと思い込んで接客していた自分、
こんな形の花贈りがあるということに、あの瞬間、思いが及んでいなかった。
そう、今日もお地蔵さんの前を通ると、あの時の花を思い出すのです^^
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